- 小塚 泰彦
トランスクリエーションの事例7
「オレンジ」はプロテスタントの象徴です。
筆者の暮らすイギリスの正式名称は「グレートブリテン及び北アイルランド連合王国」です。イングランド、ウェールズ、スコットランド、北アイルランドで構成されています。
宗教史的にアイルランドはカトリック勢力、イングランドはプロテスタント勢力が根強い。
1690年、オレンジ公ウィリアム(ウィリアム3世)はアイルランドに遠征し、カトリック軍を鎮圧しました。
このウィリアム3世によるアイルランド征服によって、イングランドによるアイルランド植民地化はほぼ完成し、現在に続くアイルランド問題が深刻になっていく契機となりました。
それ以来、「オレンジ」はプロテスタントの象徴の一つです。
1993年、"Orange"という通信事業会社がイギリスに設立されました。「オレンジ」の社名を持つその会社が「北アイルランド以外のイギリス」で展開したキャッチコピーはこのようなものでした。
“The future’s bright, the future’s Orange”
「未来は明るい。未来はオレンジにあり。」といった意味合いです。
オレンジ公ウィリアムを意図したこの言葉は、プロテスタント勢力の多い土壌に向けて発信されたことで成功を収めました。もしこの企業がカトリックの地でも同じ言葉を発信していたら、メッセージがターゲットの心に響かないどころか社会問題にさえなったかもしれません。
このように歴史的な文脈を慎重に読み解いていくことが、大きな成功と大きな失敗の分かれ道になります。
出典:『The Little Book of Transcreation - Insight into the world of creative translation 』
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