TRANSCREATION BLOG

  • 小塚 泰彦

トランスクリエーションのスタートとゴール

トランスクリエーションは「新しい共感」を生み出す技法です。


外国語翻訳でそれを行う場合は多いですが、

同言語間(ある日本語から別の日本語へ)でも高い効果を発揮します。


トランスクリエーションの第一歩は「言い換え」です。

例えば、「実家暮らし」を「両親と同居」と言ったほうが少し親孝行感出たり、

「やる気が出ない」を「やらない気がめっちゃ出る」と言うことで

そのエネルギー(気)を「やらない」から「やる」に持っていきやすくしたり、できます。

その昔、「暴走族」を「珍走団」と呼ぶことで

若者のそういった集団への憧れを削ごうとする試みもありました。


言い換えるのに「正解」はありませんし、

言い換えること自体はさほど難しいことでもありません。


言い換えることで、トランスクリエーションの第一歩を踏み出せるのですが

トランスクリエーションの着地点は「新しい共感」を生み出すことです。

そして、それこそが、技量を要する部分。簡単であるとは言えません。


さて、東京メトロに乗ると、「メトロ文学館」という広告を目にすることがあります。

先日ふと目に入ったこの一節。



夏休みが

お盆の時期に集中するのは

きっとこの国が

死者を敬う国だから


この時期だけは

日常でせわしい手を休めて

お世話になった人たちに

静かに手を合わせる


帰省渋滞 帰省ラッシュは

日本のうつくしき光景

それは星になった者たちに

会いにゆく人々の列


「東京メトロ文学館 『帰省』」



「帰省渋滞」と「帰省ラッシュ」を

「星になった者たち(死者)に会いにゆく人々の列」として

「日本のうつくしき光景」と表現しています。


「言い換え」をすることで、価値の転換を図ろうとする、

その意図は十分にトランスクリエイティブではあります。


しかし、重要なのは、そこに「新しい共感」があるかどうかです。

上記の一節はややロマンチックに過ぎるきらいはありますが

詩的に言い換えることには成功しているかもしれません。

それでも、帰省渋滞と帰省ラッシュを「うつくしき光景」として

当事者がストレスなしに受け容れられるかというと話は別です。


そこに、共感を生んでいない。

美辞麗句を並べても人を動かす力にはならない時、

その言葉が本当に機能するのかどうかを検証する必要があります。


上記は「メトロ文学館」と題され、「文学」なので

必ずしも共感をそもそも目的としていないのかもしれず

槍玉に挙げるのは筋が違うかもしれません。


ただ、トランスクリエーションのスタートラインとゴール、

その違いを認識するのに、わかりやすい事例であるとは言えるでしょう。




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