TRANSCREATION BLOG

  • 小塚 泰彦

ふるまいのトランスクリエーション

トランスクリエーションカンパニーmorph


トランスクリエーションする対象は常に「言語」です。日本語から英語へ、英語から中国語へ、あらゆる言語をまたいで創造的に翻訳することがトランスクリエーションの最初の理解と言って差し支えありません。


しかし「言語」にはいくつもの種類があります。人間が普段話している言語は「自然言語」と呼ばれますし、コンピュータのプログラミングで使う言語は「プログラミング言語」と呼ばれて区別されます。


また、色彩・図形・素材など多様な要素を組み合わせて作り上げるものには「デザイン言語」と言うべき体系があり、身体のジェスチャーは自然言語を使わなくても伝えられるある種の言語があると言えます。


目的を創造的に達成する


新型コロナウィルス感染症によって、東京オリンピックの開催自体が危ぶまれる状況が続いていますが、ここでは2013年9月7日にアルゼンチンのブエノスアイレスで行われた第125次国際オリンピック委員会(IOC)総会で、東京がオリンピック開催地に選出された時のことを思い返してみます。


お・も・て・な・し


滝川クリステルさんのこの言葉を用いたプレゼンテーションはまたたく間に有名になりました。オリンピック招致の勝因だったとも評されています。


この有名になった言葉に、同じく有名になったジェスチャーがセットだったことは多くの人の記憶に鮮明なことでしょう。手の甲を下にして、「お・も・て・な・し」を音節ごとに5回に区切った、柔らかく丁寧な印象のアクションでした。


実はこのアクション、最初は人差し指を上から下に動かしながら「お・も・て・な・し」と表現するプランだったのです。


日本チームのプレゼンテーションを指導したマーティン・ニューマンは、その仕草が「上から目線」で、聴衆を教え諭すような印象を与えることから、変更することを提案したのです。


さらに、この言葉にはもう一つのジェスチャーがあったことを覚えているでしょうか。


お・も・て・な・し


滝川クリステルさんが2回目の「お・も・て・な・し」を口にしながら取ったジェスチャーは、「合掌」でした。


合掌が"おもてなし"をあらわす仕草でないことは、マーティン・ニューマンをはじめチームの誰もが理解していました。ではなぜ。


東京へのオリンピック招致が、日本だけではなく、アジア全体からの発信・アジアへの招致であることを印象づけるためだったとマーティン・ニューマンは述懐しています。


合掌は、アジア圏外の人からすると、非常にアジアらしい仕草です。また、合掌がアジア圏で敬意を表す仕草であることもかなりの程度で知られています。合掌が「歓迎」を連想させるジェスチャーであることから、あえて選ばれたのです。


正しいだけでは伝わらない


「歓迎」を正しく表すためによく使われるジェスチャーだった場合と、少し意味が異なるものの「歓迎」に加えてあらゆる意図や想いを連想させて伝えられるジェスチャーである場合。どちらが本来の目的を遂げていることになるでしょうか。


コミュニケーションを創造的にして、人の感情を豊かにする。多少の「正しくなさ」が紛れていても、それを呑み込んでしまうような、より大きなうねりを生み出す。


「お・も・て・な・し」のジェスチャーは、身体言語のトランスクリエーションを考えるのに非常に興味深い一例です。



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